香ばしく焼けた甘味噌風味の満州焼と溢れる昭和感に癒される【庄兵衛】

ガラガラと引き戸を開いてまず驚くのは、店内の広さ。長いカウンター席とテーブル席が10卓。さらにその店内がじつに清潔で清々しい。その清潔さは、映画のセットかと思うほど。50年以上も営業しながら、調理場も含めてこれだけの清潔さを保てるのは相当なこと。それだけ日々のことに手を抜かない店ならば、旨くないはずはない、と直感させられます。

店主の原 明史さんが愛しそうに開け閉めするカウンター内の冷蔵庫は、この店を始めた時に誂えた年代物。これもピカピカに磨き上げられていて、今でも現役で活躍している。店内のどこを見ても、店主の誠実さと、店に対する愛情が感じられてじつに気持ちのいい店です。

「戦後間もない時に、父親が桜木町駅の近くでおでんの店を出したのが始まりです。」と語る原さん。その後、3人の兄弟が店を継ぎ、それぞれに店を持ったのだという。現在、残っているのは、日ノ出町のこの店と野毛の2店。野毛の店は弟さんが経営されている。

カシラと呼ばれる豚の頬肉を使い、継ぎ足しの秘伝の甘味噌だれを絡めて焼いた名物の満州焼も、先代から引き継いだもの。味噌が焼けて香ばしくなったカシラは、噛むほどに旨味がにじみ出て、もう一本、もう一本と食べたくなる深い味わいです。実際、満州焼はひとりで5-6本を平らげるという人も少なくないそうな。

初代が店を始めた頃には、桜木町や日ノ出町の界隈には現在のみなとみらい地区にあった造船所などで働く労働者が多く、濃いめの味付けが好まれた。甘味噌だれの串焼きが誕生したのも、そうした背景から。濃厚な味噌味は酒がすすむし、ごはんのおかずにもなる。飲んだ後のしめに、焼きおにぎりとともに満州焼を頼む人がいるというのも頷けます。

満州焼という名前は、創業者である原さんの父親が、満州からの引揚者であったことに由来する。当時、カシラは旨味がありながら安く手に入る部位として重宝されたが、満州では豚の頭は神に捧げる神聖なもので、同じ引揚者の客たちと満州時代を懐かしく語り合ううちに、いつしか郷愁を込めてこのカシラの味噌焼きを満州焼と呼ぶようになった。

冬には同じ甘味噌だれをまとわせた牡蠣の串焼きも人気で、これを目当てに牡蠣の季節になると来店するという客もいる。「牡蠣は海水温が下がると身が引き締まるんです。そうすると串焼きにしても身が縮まず、ぷりっとして旨いんです。だから、いつから牡蠣をはじめるかは、日々牡蠣の様子を見てタイミングを計ります」とご主人。「牡蠣を串焼きで出すというのはあまり他店ではないと思うんですけど、身が締まった牡蠣は味がしっかりしているので、味噌とよく合うんです」。そう教えてくれたのは、店主の甥で、現在焼き方を担当している原 敦史さん。ちなみに、牡蠣の串焼きが食べられるのは、桜が咲く頃まで。

ほかに、最近は寿司屋でもめったに見かけることのなくなった青柳や、大きな海老の串焼きもおすすめ。通な客が好むレバーの串焼きは、新鮮なレバーでなければ味わえないシンプルな塩焼きの逸品です。串物の焼きには炭火を使用。ほんのりと感じる炭の香りが、旨さを引き立てます。これまた冬から春にかけて季節限定で扱う樽酒との相性もよし。

10時閉店というのは、酒を出す店としては少々早いようにも思えるが、毎朝8時から仕込みを始めるので、どうしても早じまいとなってしまうのだそう。きっちりと切り揃えられて串を打たれた食材を見ると、その仕込みの丁寧な仕事ぶりがうかがわれます。納得のいく仕込みが出来る量から営業時間を決めるという職人気質なのでしょう。これも、いい加減なものは出せない、という誠実さの表れ。

こうした店では、酒は料理を味わいながらほどほどにいただき、だらだらと長居はせず、あとを濁さずスマートに席を立つのが正解でしょう。昭和の面影を色濃く残し、誠実に時を重ねた庄兵衛は、いつまでも変わらずにいて欲しい銘店です。

なお、焼き物は持ち帰りにも対応。電話で注文しておくと待たずに受け取れるので、自宅で家族と味わいたいという方もご利用ください。

元祖 満州焼 庄兵衛 日の出町店
〒231-0066 横浜市中区日出ノ町1-25
営業時間 16:30-22:00 (LO21:30)
定休日:日曜日、祝日
TEL  045-241-1092

※時短営業などの情報は各店にお問い合わせください。


     

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